振り子
salco

ゾウのすむ森
という名の運動場
いちばん小さいウタイは
頭を振っている
振り子みたいに夕暮れ時
歩いてやり過ごす二頭をよそに
空中に鼻をしならせ
耳朶で風を鳴らすよう
右に左に頭を振り続ける

顔がキツネでチーターより美脚な
タテガミオオカミは四角い檻を
ぐるぐるぐるぐる
イヌの胎児が巨大化したような
コビトカバは四角いプールを
ぐるぐるぐるぐる
生態展示容器の中
能動の拘縮を生きる
ヒグマは強化ガラスの小部屋に寝そべり
鼻孔を壁の隙間につけては
ブシューー!!!
アレンジメントなき環境で
アレンジメントなき反復を動作する

高塀の向こうからしきりと
アティの鼻先がメス達を嗅ぐ
ウタイは振り続けている
齢近のスーリヤは知らん顔
右耳に小穴のある
大きなダヤーが近づいて行く
横腹に額を軽く押し当て
それから並んで寄り添ってやる
ウタイはやめない

ダヤーは離れ、周回に戻る
時計回りに二周
反対回りに一周
返して一周
今度は仕切りの鉄扉へ直進する
ぐゎあん と音がして
何も起こらない
後ずさり、周回に戻る
夕暮れ時
ウタイは頭を振っている


自由詩 振り子 Copyright salco 2012-12-26 23:19:37
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