リバース
山中 烏流







あの子は大人になってしまった


彼女は虹のたもとで
まだ
じょうろを握り締めている



***



鈍色のカーテンを引いて
人々は眠りについた

張り詰める風もなく、ただ澄み切った空気の中で
たくさんの忘れられたものが
街にひしめいた



あの子は大人になってしまった


彼は出窓から見上げる銀河鉄道を
必死に指でなぞった



***



ことばは
どこかに去ってしまって
いつしか
きみの
名前すら
失くしてしまって

ほとんどのものを
殺しても
殺しても
戻らないそれを

きみは

、とよんだ



***



冷たくなった缶コーヒーを片手に
口笛を吹いて
あの子は帰路を辿る

きらきらした、どろどろしたものは
もう
どこにも見なくなって
這いずったり
縋りついたり
うそぶいたりしながら


あの子は



***



あの子は大人になってしまった


きみは
そう言って背を向けて

いつか遠い日の夢の先に
駆けて
いってしまった











自由詩 リバース Copyright 山中 烏流 2012-12-25 07:02:04
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