徒刑
salco

高い高い塔の上
いにしえの鎖の枷のその先に
脱ぎ捨ての襤褸と見まごう
汚物まみれの女の転がる
まだ生きおるぞ
ひび割れの口ぱくぱくと
慟哭、悪罵も枯れ果てて
面影に爛れの眼から涙を流し
潰れた胸から幽霊のよな
仄白い息吐くばかり
石畳温め寒気に凍る
そうこの女
いっかな死なぬ

聖母と呼ばれたこの女
果報ばかりを産まされて
血まみれ胞衣の点々と
弔い鐘だけ聞かされて
諦めたとて忘れ得ぬ
悲痛の裡に気が触れた
それで聞こえも閂を掛け
海の轟きするばかり

高い高い塔の下
国と国とは覇を競い
人と人とが威を示し
電波の空を縫う戦闘機
砲弾が落ちミサイル抉る
火柱上がり地が震え
風に舞うやら廃墟となるやら
女には聞こえない
瞼うらの
今日も吾子が殺されただけ
 儂の子が
儂の子を
時を戻せ命を返す
うねり逆巻く海の轟く


自由詩 徒刑 Copyright salco 2012-12-24 23:13:58
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