ダイアリー
itukamitaniji

ダイアリー

はじめまして 今日から僕は君のダイアリー
そして今 君と僕だけの最初の物語が
僕の白い体に刻まれてゆく 間違えないように
丁寧に丁寧にと 優しくて温かい丸文字で

たくさんの秘密を君は僕に 分けてくれる
好きな人の名前も こっそり持ってる夢の名前も
僕は全部知っているよ 覚えておくから
いつか君自身が その名前を忘れてしまっても

君の物語を分けてもらって
それが僕の物語になる


どんな些細なことも全部 書き続けた
楽しい嬉しいで 埋め尽くされた毎日だった
だけどふいに途切れて ある日空白になって
一日置き二日置き ついに週に一日になった物語

長いこと空白が続いた後 君が書いた物語
汚い言葉で この世界や自分を罵ってしまった
君の瞳から 大粒の涙がたくさん零れて
僕の真っ白な体に 染み込んでいった

君の悲しみも寂しさも
僕が全部受け取ってみせるよ

そしてまた空白が続く 僕は本棚の隅っこで
ずっと待ち続けた 君らしい君がまた戻って来ることを



久しぶりだね 待ってたよ君が戻って来るのを
君はいつになく 真面目な表情をしていて
それはどこか 前よりも大人びて見えた
もう大丈夫だって そう言っている顔だった

それじゃあ教えてよ 君が立ち直った物語を
君は一心不乱に 長い空白を埋めるように
書き続けた たくさんの強い意志を込めた言葉を
丁寧に丁寧にと 優しくて温かい丸文字で

君の物語を分けてもらって
それが僕の物語になる



喜び悲しみ罵りも 全部繋がって長い物語になった
ついに最後の僕の体に 君はいつもの丸文字で
最後の物語を刻んで 僕を小さな箱の中に入れた
そして大きな木の下に そっと僕を埋めた

10年後の春の日にまた
会いに来ると君は言って

そして僕は長い長い 眠りについた
真っ暗で冷たい土の下でも 全然平気だよ
君がくれた物語を 大切に大切にしまって
君にまた会える日を ずっと待ち続けた










そしてたくさんの時間が 流れていった
ある春の日 僕は白日に晒されて目を覚ますと
懐かしい君の顔が 僕を覗き込んでいた
変わらぬが しかし大人になった君の顔だった

ちゃんと残してあるよ 君と分け合った物語を
君は僕の体をなぞって 少しだけ微笑んでいた
最後のページ あの日君が書いた最後の物語
「10年後の私へ」 過去から届いた君への物語

君はほんの少し泣いて そしてまた微笑んだ





ありがとう
たくさんの物語をくれて
それは僕の物語になった
ずっとずっとしまっておくよ


自由詩 ダイアリー Copyright itukamitaniji 2012-12-19 02:02:00
notebook Home 戻る  過去 未来