ウェイトレスの娘
salco

娘は
今日も一日家にいた
年を取るのは嫌だ嫌だと言いながら
母親は水ぶくれの手で
何種類ものクリームを塗ったくっている
客の食べ残しを載せた皿を今日も洗う為
にせ鰐皮のバッグは椅子の上
鏡は時計よりも正直に
残酷な今だけを映している

コーヒーを飲み過ぎた母親はとうとう
永年不眠症の口うるさい亡者になった
投げやりな険しい顔相のトーチカで
眼だけが執拗に娘を追い回す
割れ皿のこすれ合うような声で
娘に人生の調べを聞かせている
 こういう男にはこういう注意をしなきゃ駄目
すっかり黒ずんだ顔を入念に塗りこめながら
母親は数々の警告を与え続ける

だから娘は家にいる
一日じゅう、一年じゅう家にいる
窓辺に置いた鉢植のように
蒼白い顔を弱い陽光に向け
鳥である自分を想像している
歩いた事のない足で空を舞い
堕ちた事のない体を雲間で遊ばせている
母親の自慢の種の
絹糸みたいな長い髪を埃だらけの床まで垂らし
小さな円椅子の上で微かに体を揺すっている
空と触れ合う安アパートの最上階
窓辺の籠の中


自由詩 ウェイトレスの娘 Copyright salco 2012-12-16 23:17:16
notebook Home 戻る