紙の家
そらの珊瑚

葉書は、
白い壁の長方形の紙の家
うすい、
厚みしかないためにひとりで立つこともできない家
寝転がったまま まだ見ぬ遠い街を夢みているのだろうか
小さな窓がある
そこに灯されるのは あかりではなく、
宛先

駅があって道路があってしばらく行けば海が見える
狭い路地には置き忘れられた三輪車
赤いポストに今日の新聞が投げ入れられる
けたたましい目覚まし時計の音
ほら、夜ふかししているから朝起きられないのよ
おはようが家々から聞こえ始める
湯気がのぼり真白いごはんが炊き上がる
味噌汁 漬物 卵焼き あぶった海苔
食べ物の匂いが混ざり合う食卓
いってらっしゃい
いってきます
人が人を見送る
帰ってこないなんてこれぽちも思わないで
けれど
帰ってこない人もいる
帰ってきたくても帰れなかった人がいる
そんな現実を突きつけられても
再び人は立って歩きだす
うすい、
厚みの身体が風にとばされないように

おたよりだします
あの人の住む街が
小窓の中でななつの数字になる


自由詩 紙の家 Copyright そらの珊瑚 2012-11-27 08:28:54
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「詩人サークル 群青」課題作品