新生 デッサン
前田ふむふむ

 
          
わずかにからだがゆれている
冷気さえ眠る夜に
自分がふれた蛍光灯のスイッチの紐が
ゆれているのを見て
からだがむしょうにふるえてくる
ずいぶんと経たが
もうなおらない気がする

蜃気楼のように
痩せた牛が足を引きずりながら
道路を横切っている
廃屋の庭にはセイタカアワダチソウが
群生している
うまれたばかりの空
それは きっと
これから名づけられるのだろう

みずのにおいを消し去った
なにもない瓦礫の野で
ひとりの男がなにかを探している
その寂しいすがたに
わたしは 明治四十三年
若かった民俗学者が
少年のような眼で
さがし紡いだ
若い女の幽霊に栞をはさんだ

曲がった家族アルバム
透明なランドセル
逆立ちしているモネの偽絵画
卓上時計のなかに咲いたみずの花

そして
みんなで大きな柵をつくり
みんなの動けなくなった人をならべた

身体をおおう純白の布の
いさぎよい色は
きっと
このときのためにあるのだろう

おぼえている
昔 父の葬儀のとき
抱えた白い骨壺はとても冷たかった
あの純白は
これから歩いていくものだけが
もてるのだ

アオサギが啼き
わたしの足が西にかたむくころ
低い稜線が
すこしずつ
 海に没している







自由詩 新生 デッサン Copyright 前田ふむふむ 2012-11-23 23:52:08
notebook Home 戻る  過去 未来