50の瞳の輝き
夏美かをる

毎週火曜日
下の娘のクラスにボランティアとして入っている

私が話すつたない英語でも
一生懸命に聞いてくれる
小学一年生の瞳には
一点の曇りも宿っていない

恐らくその瞳はまだ
本当に醜いものをとらえたことがないのだろう
ブルー、グリーン、グレー、ブラウン、アンバー、ヘーゼル…
どの色の輝きも皆一様に美しい

娯楽大麻と同性婚が新たに合法化されたこの国で
この子達はこれからどのように成長していくのだろう?

私には想像し得ない世界観に向かって
この子達はいつか羽ばたいていかなければならない

どうかその瞳の輝きをいつまでも失わないように―
どうかその翼がしなやかで強くありますように―

アメリカという
あまりにも大きくて混沌としている国で
移民として生きている私には
そう祈ることしかできない

“See you next week!”と言って教室を出ようとすると
先生が“Class, say‘Thank you’to Mrs. S!”と声を掛け
50の瞳が一斉に私を見つめた
その一つ一つから放たれたまっすぐな光の矢が
脆弱な私の心を次々に射った

半分は日本人としてこの国で生きていく
娘達の瞳の輝きを護るために
私もしなやかで強い翼が欲しい…
ぎこちなくなってしまった笑顔で手を振り返しながら
心からそう願った



注)娯楽大麻と同性婚はアメリカのすべての州で合法化されたわけではありません。


自由詩 50の瞳の輝き Copyright 夏美かをる 2012-11-21 15:30:08
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