朝—デッサン     
前田ふむふむ

               

ふかくふかく沈んでいく
ひかりが ひとつひとつみえなくなり
一番遠くのほうで白い水仙がゆれている
たびたび あわがすこしずつのぼっていくと
呼吸していることがわかる

鐘のおとがきこえる
まるで葬祭のように
悲しい高さで 眼の中にしみてくる
焼けるような赤い空が
野一面をおおっていて
たぶん こころのやさしい人が
世界を手放したのだろう

おびただしいあわがみえなくなると
透けるような肌の少女が
ラセン階段を昇っている
そして降りている
流れるみずを境にして

脂ぎった手で窓をあけると
言葉の破片が流れていく
それは、やがて雪のように
誰も知らないところで
積もっていくのだろう
数世代前の
胸に真っ赤な花を咲かせた先達は
他者の声をきいたというが
わたしにはきこえない

青白い指先にあたたかな
質量がともる
この心地よい場所は
陽光の冷たさをすこしずつ
なじませていくのだろう

ふかくふかく沈んでいく
そのなかを
ひばりが旋回している





自由詩 朝—デッサン      Copyright 前田ふむふむ 2012-11-20 20:46:38
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