わたしバックします
たま

冬の玄関にはわたしにいちばん近い花を置くたとえば蒲公英

辿り着いた岬に根をおろして君は海をみていたね昨日も今日も

陽だまりを送ってくださいとあなたが言う十一月の蒲公英を送る

今年最後の夕日を見たからもう数えません眠れない夜は

今日のわたしは砂丘を運び終えた海のようにだらしなく時化る

呑みたいときに呑めばいいサンタさんのポケットウィスキー

美味しい缶コーヒーの呑み方はよく振ってから缶のまま呑む

空き缶の上手な捨て方は思いっ切り蹴飛ばして海に捨てる

空いたままはいやだからせめて塩水を詰めておいてください年の瀬は

夕日にいちばん近い海で恋をする五十男のノベルは売れない

売れない自己愛を塩漬けにしておやつの時間に食べる年金作家

冬と名づけた夜の底にわたしひとり分の落とし穴と雪景色

風邪薬が効きすぎて耳が遠くなったわたしに風船ガムひとつあげる

平熱に下がってもまだ手離せないあなたという名の体温計

眩しいと言えない季節に生まれたわたしの眼に凍てた鱗雲

膝をついたオリオンの傍らを往く還らないソユーズの軌跡十一月

石灰の女は着地点を見失ったミューズ縊死した左手に冬日

等高線が混みあってあぶないから気をつけてわたしバックします

直進は上手いけど若葉マークのラパンは曲がれない雪の辻

噛んでくださいってどこを?二十年ぶりの歯科でお姉さんに遊ばれる

痛かったら左手をあげてください右手はお姉さんの死角だから

できれば一期一会で済ませたい左手だけのお姉さんとは

冬の窓辺にはわたしにいちばん遠い花を置くたとえばシクラメン

では良いお年をお迎えください・・。なんて十一月は喪中の人













自由詩 わたしバックします Copyright たま 2012-11-19 14:56:32縦
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