ふゆのうで
そらの珊瑚

冬の夜
わたしのうでは母に貸すものと決まっていた
ほどかれたセーターの毛糸の輪を
うでに通してかかげていると
母はそのはしをくるくると巻き取って
毛糸玉を作る
単純な作業は退屈で よく居眠りをした
退屈な日常こそ
過ぎてみれば輝くことを
あの頃はまだ知らなかった

編みぐせのついた毛糸は
少しちぢれて空気を含みあたたかい
子供の成長に合わせて
編んではほどかれ
ほどかれては編んで
編み継がれていくからだろう
弱いところが
時々ぷつりと切れてしまう

家族も時々ぷつりと切れる
切れたそのあと
また編んでみたくなる
冬の夜
母はもう貸してといわないだろうが
今でもここに持っている
ふゆのうでは糸車




自由詩 ふゆのうで Copyright そらの珊瑚 2012-11-16 11:55:42縦
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