眠れないパンジー
たま

もう、十一月だ。
現フォもすっかりサボッてるけど、ここんとこ畑仕事もサボってる。
十一月は関西では玉葱の植え付けシーズンです。休日の朝、買ったばかりのラパンに乗って、玉葱の苗を買いに行きました。十二年間、黒いカブトムシに乗っていたのですが、この夏に故障して修理に出したら、国内に部品がないからと言われてひと月ほど乗れませんでした。また故障したら嫌だし、春から収入が減ったからハイオクで走る車は維持できなくなったし、二十年間、ペーパードライバーの家内が乗りたいと言うし・・、それでカブトムシを廃車にしてラパンを買ったのですが・・。

あ、そや、玉葱や・・。

あれ? おばちゃん、玉葱ないなぁ・・。
そうなんよ、今年は雨が多くてデキが悪てなぁ。お昼に入荷するから予約しとこか・・?。
あ、そうなんや。ほな、晩生200本予約しとくわ。あ、茎ブロッコリーもほしいけどぉ・・。
あ、あれなぁ、今年暑かったから苗できんかったんよ・・。
え、そうなん?。あれ、おかずになったのになぁ・・。
たまに夕食に出るステーキの傍らに、軽く炒めた茎ブロッコリーは最高の野菜だったのに残念だった。でも、収入が減ったからステーキもアテにならないかも・・。ああ、もういらんのかなぁ、茎ブロッコリー・・。

お昼ごはん食べて、苗を取りに行った。
一束600円。二束で1200円。約200本だ。玉葱の苗を知らない人は、茎の直径3ミリほどの細いネギを想像してください。長さは15センチぐらいです。それが100本だと大人の手でひと掴みほどになります。
お店を出ようとして、ふと、店先のパンジーの苗が目に入った。
あ、そうや。ぼちぼち、パンジーも植え付けなあかんなぁ・・。
でも、このお店は高いから安いとこで買うことにした。

ラパンにはエンジン・キーがない。ボタンを押すとエンジンがかかる。軽のくせして、ベンツみたいな車だと思った。あ、でも、ベンツには乗ったことない。ぼくはまだこの先三十年は生きるつもりだから、もうひと稼ぎしてベンツを買いたいと思ってる。まだ、まだ、年金詩人にはなりたくないのだ。ベンツ乗るまで死ぬもんか・・、 よーし・・。

あ、ちゃう、玉葱や・・。

自転車こいで畑に行く。
年間、一万一千円で借りてる我が家の菜園は、すべて玉葱で埋めつくしたら一000本は植えることができるだろう。でも、200本で十分だし、それでほぼ十ヶ月は玉葱を買わなくていい。玉葱は保存ができるからだ。ただし、早生はだめ、梅雨時に収穫する晩生でないと保存はできないのです。だからいつも晩生にするのだけど、そうなると、五月の夏野菜の植え付けシーズンに玉葱が邪魔になる。
ナスビ、トウモロコシ、胡瓜、トマト、西瓜、甘トウガラシ、など、夏野菜はいちばんの楽しみだから、五月の畑には大根や玉葱など冬の野菜はなるべく残したくない。だから、200本はぎりぎりの選択なのです。

日が暮れるまでに苗は無事に植えつけた。
これで来年の玉葱は確保できた。しかし、問題はこれからだ。
あいつらまた来るやろなぁ・・。
耕したばかりの畑は野良猫のフン場になる。少々、濡れていてもあいつら平気で穴掘ってフンをする。

あくる日の夕方、れんちゃんと散歩しながら畑に行った。
あ・・・、やっぱ、やられてる。
畝の中ほどに大きな穴がふたつ、そのまわりに植えつけたばかりの苗が散乱していた。猫の詩は美味しいけど、現実の猫はそうはいかない。たとえ、詩人であろうとここは心を鬼にして怒り狂うしかない。

まったく、もぉ・・。 なぁ、れんちゃん、あんたここで留守番してるかぁ?
でも、れんちゃんは猫に馬鹿にされる犬だからそれもできないし、去年はネットを張ったけど今年はもうやる気もないし、どうしようもないなぁ・・、打つ手なしか・・。

あ、そや、パンジーや・・。 

と、言ってもパンジーが猫を撃退するのではなくて、この散文はパンジーが主題だということです。では、もう少しお付き合いください・・。
十一月になるとパンジーの苗を植木鉢に植え付けて、玄関先に並べることにしています。いつも多くて五つぐらいだから苗の数はしれている。もう二十年ほどそんなふうにパンジーを楽しんでいるけど、土いじりを始めたころは熱心に園芸書を読んで育てたものです。
パンジーの育て方でいちばん大切なのは、花柄を摘むこと。つまり、咲き終わった花を指でつまんでちぎり取るのです。そうすることでパンジーの開花期を延すことができるのですが、なぜかと言うと、花が終わると必ず種になります。種がたくさん出来るとパンジーはもう花をつけなくなるのです。だから、種がつきはじめた花柄を摘んでやると・・、
あ、こら、あかんわ・・。と言って、
いつまでも花を咲かすのですが、パンジーがそんなこと言うわけありません。・・おい。
ところがそれがたいへんな労力を必要とします。甘く見てはいけません。なんせ春になって株が大きくなるといっぱい咲くのですから、もう毎日の仕事になります。
ある年、ビオラを植え付けました。ビオラはパンジーにそっくりだけど、ひとまわりちいさい花です。それがまたいっぱい咲くのです。おまけに花がちいさいから花柄摘みは相当な根性がいります。さすがのぼくもビオラは三年ほどでやめました。
そんなわけで我が家のパンジーは六月になっても花を見ることができるのですが、これはもう、パンジーにとっては迷惑としか言いようがないでしょう。パンジーは春が来たらさっさと種を宿して眠りたいはずですから。

あ、そうそう・・。

なぜ、こんな散文ができたかというと、山人さんの散文「熊の餌について」を拝読したからです。人は「植物にとっての危機感」を利用することで、花を咲かせたり、実を収穫したりするのですが、植物にとっては迷惑な話しかもしれません。
そんな気がして、我が家のパンジーにひと言謝っておこうと思うのです。

パンジーさん、ごめんなさい。
今年もよろしくね・・。



山人さん、ありがとうございました。










散文(批評随筆小説等) 眠れないパンジー Copyright たま 2012-11-08 21:07:01縦
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