がじゅまるのこと
はるな


ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。

植物の方が、動物よりもなじみ深い感じがする。幼いころから。そこらへんの木や草や花をちぎってよく食べたし、きれいな花や面白い実は思うままにむしって飽きたら捨てた。ただし花壇に植えられているような(小学校の、園庭!マリーゴールドやチューリップやクロッカス、いかにも花というような派手な色彩の花たち)花よりもそのへんに蔓延っている雑草のほうがより好ましかった。忘れな草とかオオイヌノフグリとかたんぽぽとか。
歩いていて目にとまる植物の名前はだいたいそらんじていた。でも、もう忘れてしまった。どんな花を咲かすのかも。あれらの植物は、いまのわたしの友人ではなくなってしまった。

小さながじゅまるを抱いて帰る道すがら、うれしいか?と聞かれ、うれしいと返す。お前はほんとうに植物が好きなんだな、と夫が言うのは、わたしがたびたび花を買って帰るところからだろう。いままでに鉢植えを買ってきたことは一度も無いということに、たぶん気づいていないのだ。
夫はわたしとくらべて健やかすぎる。わたしは彼のそういうところを愛しているけれど、同じぶんだけみじめになる。
夫は、根を張ることに疑問を抱かない植物だ。
そのうち、がじゅまるもこんな小さな陶器から植え替えてやらなければならないだろう。



散文(批評随筆小説等) がじゅまるのこと Copyright はるな 2012-10-16 21:12:34
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