斬る
渡 ひろこ

シュッと宙に向けて突き出した切っ先が
目に飛び込んできた
暗い展示室にひときわ輝く一振り
研ぎ澄まされた刀身が
強いスポットライトを跳ね返して
銀色の光を放っている


思わず吸い込まれるように近づく
蛇行する刃文の文様がくっきり浮かび上がる
そのゆるやかな刃文の曲線を尖端までたどると
「痛っ」
鋭利な刃先にスパッと視線を斬られた


凛とした真新しい太刀は
鬱屈した私のていたらくを斬る
(己の怠惰を血筋のせいにしてはならぬ、と)


見抜かれてしまった自分への口実
いや、斬られたかったのかもしれない
責め纏わりつく血のしがらみを


手を尽くしても
自己満足の徒労に終わったあの夏から
胸の底に黒い塊が棲みついてしまった


打ち鍛えられた鉄は邪念さえ祓うのだろうか
まだ血の汚れを知らない
無垢な地がねの肌


ガラス一枚隔てての対峙


そっと横にならぶ
しなやかに反る切っ先が
指し示す方向を見た








自由詩 斬る Copyright 渡 ひろこ 2012-10-10 19:38:13縦
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