おゝ、フィーリア
salco
蒼然古色霜夜の廃城
その回廊を音もなく飛び歩く
惨劇の後の静寂は、ひたと夜闇に寄り添って
風ばかり、眠れる草木をあやしている
石は変わらず乾いてそこに在る
お前は
どのストーンヘンジからやって来た
何番目のストーンヘンジからお前は来たか
川はせせらぎ
千々なる月の面を壊し続け
在らしめ続けて流れている
「あゝ、昏い。まるでここはお墓のよう」
誰も呼びに来ぬ野っ原を駆け巡る
乙女の霊はここにも彷徨う
狂った花嫁の亡霊は、ここではひっそり横たわるよう
「それでもわたしには聞こえていてよ」
全てを帳消しに、己が身も消える夜明けまで
長らく水面を浮き沈み
「ひなぎくは何故わたしにさようならを云うの?」
「ライラツクは何故わたしを捕えようとするの?」
燐光を宿したガラスの目をしている
「わたしはずいぶん長い髪をしているでしょう?
そうして夏陽に耀く亜麻色でしょう?
お日さまとお花を差し上げてよ」
お前の可哀想なハムレットの為に泣いておあげ
「水の中でどうやって?
わたしには捧げる泪がありませぬ
水のように、もうわかりませぬ」