おゝ、フィーリア
salco

蒼然古色霜夜の廃城
その回廊を音もなく飛び歩く
惨劇の後の静寂は、ひたと夜闇に寄り添って
風ばかり、眠れる草木をあやしている

石は変わらず乾いてそこに在る
お前は
どのストーンヘンジからやって来た
何番目のストーンヘンジからお前は来たか

川はせせらぎ
千々なる月の面を壊し続け
在らしめ続けて流れている
「あゝ、昏い。まるでここはお墓のよう」

誰も呼びに来ぬ野っ原を駆け巡る
乙女の霊はここにも彷徨う
狂った花嫁の亡霊は、ここではひっそり横たわるよう
「それでもわたしには聞こえていてよ」

全てを帳消しに、己が身も消える夜明けまで
長らく水面を浮き沈み
「ひなぎくは何故わたしにさようならを云うの?」
「ライラツクは何故わたしを捕えようとするの?」

燐光を宿したガラスの目をしている
「わたしはずいぶん長い髪をしているでしょう?
 そうして夏陽に耀く亜麻色でしょう?
 お日さまとお花を差し上げてよ」

お前の可哀想なハムレットの為に泣いておあげ
「水の中でどうやって?
 わたしには捧げる泪がありませぬ
 水のように、もうわかりませぬ」


自由詩 おゝ、フィーリア Copyright salco 2012-10-08 23:03:45
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