生活者のうた
梅昆布茶

いつもMDのラフマニノフは家に帰ると鳴りっぱなしで乾いた道と渇いた人にちょっと疲れた心をなぐさめてくれるのだが。
現実派ではもともと無いのではあるが独りの家計はあらためて可処分所得の少なさをしっかりと認識させてくれる。

銀行口座の引き落とし日にあわせてやりくりする生活にも慣れたがたまにはスナック道の小百合姉さんや茜ちゃんたちと御馬鹿に盛り上がりたいときもある。
機会があったらPAZUのアマチュアライブに詩か音楽でエントリーしてみたい気もする。

給料のかなりの部分が家賃と納税者の義務の遂行に消えてゆく。

鑑別所帰りの加藤君は一人で仕事を始めて彼なりにがんばり中だ。
なつえ嬢は以前からの詐欺男との生活から抜けられないようだ。
売れないユニットのクリスタルチェリーの茜さんもいまだ売れていない。
友人のジェロは肛門におできができて運転できず救急車で病院に運ばれた。
同僚の庄司くんは退社して次の仕事の返事待ちの四人の子持ちだ。

個々の人生は時々交錯はするがその根っこは自分で支えなければならない。
皆人を助けられるほどには裕福ではないのだ。

僕は僕でまだ別世帯ではあるが四人の子持ちの嫁さんの生活に多くを割かなければならない。長女が盲腸で入院しその費用も未払いのままなのだが。

とりあえず僕は生活者であることを自分の身に染み込ませて生きようと思っているしいつも姉にばかり負担をかけるろくでなしの弟ばかりではいられない訳なのだ。

その認識のうえで表現したい伝えたい想いが浮かんだら詩のようなものあるいは時に音楽のあるいは絵画のようなかたちであらわしていきたいとも思っている。

国家は堅実な納税者を歓迎はするが返礼を求められればそそくさと席をはずしてしまうものらしい。

僕は冷蔵庫の残り物でレシピを考えるのが好きになった。
インドアでお金を使わずに現フォの詩を読んだり音楽を聴きながら図書館で借りた新潮選書とか筑摩叢書とかちょっと自分では買えない値段の本で時間を満たすのが上手くなった。

会社を辞めてゆく人の仕事が僕に廻ってくる。
僕は今の仕事を新人に教え引継ぎをする。
部長からは車両の管理をうるさく言われる。
出向先の社員さんたちとたわいないジョークで笑う。

そんな日常の輪郭を感じながら生きてゆく。
その周りにぽっかり浮かんでくるうたがあればそれでいいと思っている。

アイパッドで久しぶりにJackson Browneの歌のコード譜を検索してみる。
FuseとかThe Pritenderとかゆるく適当に弾いて歌ってそんな他人から見ればほとんど意味の無い時間が僕を保っているのかもしれない。

僕は生活者であっても時々蛇の尻尾を持ったり亀の手足で這ってみたりあるいはJackson Browneになってもいいと思っている。






散文(批評随筆小説等) 生活者のうた Copyright 梅昆布茶 2012-10-06 20:04:55
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