台所のかたすみで
梅昆布茶

発酵と腐敗は兄弟で
人間生活に有用なものは発酵
有害な場合を腐敗というらしい

母の遺産のふるーい缶詰がある日でてきた
台所のすみで静かに時を過ごして
僕と対面したわけだ

すでに缶は妊娠したように膨らんでいる

恐る恐るひっぱりだして
色あせかろうじて読めろラベルには
黄桃とあった

いくらジョウブがとりえの俺でもこれは無理...
とか思いながらすでに酸化し
ふちの一部が黒くなったそれを
缶きりであけて中味はこころのなかで供養して生ごみに

こうして化石になるまえにかつて
素敵なデザートだったそれは
微生物のごちそうだったひとつのねむりからさめて
また土にかえってゆくのだろう

もちろん火葬ではあったのだけれど
ちょっと母のことを
おもってしまった

生前なんでも備蓄する母に
食べなきゃ意味ねーしとか
皮肉を言っていたが

それでもなかにはじゅうぶん
いけるものもあって決死の覚悟ながら
随分へらしてはいるのだが

でもまだ何かえたいの知れないものが
どこかに眠っているような
きもするのだ



自由詩 台所のかたすみで Copyright 梅昆布茶 2012-09-22 22:08:04
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