うつろい
そらの珊瑚

蝶に似た花に
花に似た蝶がとまっていますね

うろこに似た雲が
ここではないどこかから流れてきて
ここではないどこかへ泳いでいきます
そこは空ですか
ええ
海によく似た空です

せつなさとかなしみが
混ざり合うように
九月の蝉が啼き続けています
彼らの下半身はほとんど空洞であるそうです
空洞であるからこそ
響き合うものがあり
響かせたいものがあるからこそ
空洞を必要としています
そこは空洞ですか
ええ
心によく似た空洞です

わたしによく似たあなた
あなたによく似たわたし
合わせ鏡のこちらとそちら
もうひとつの世界をのぞいてみたら
いつか見たキリコの絵にあった
黒いシルエットの少女が
空洞を抱えた輪を転がしながら
走っていきました
どこへ?
うつろわないものはないのでしょうか
ええ
うつろわないものなどないのです

あなたもうつろいのなかを生きているのでしょうか
ええ
わたしもまた
からん からんと


自由詩 うつろい Copyright そらの珊瑚 2012-09-15 15:58:50
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