石の気分で
石川敬大




 柄のとれたモップの毛先から滴りおちてくるのは
 汚れた雨だれ
 きっと
 津波だってそうだね
 津波なんて言葉ききたくもないけどね
 月なみだってそうだよ
 邪気がないからやっかいだ

 西方浄土から
 黒い雲がおしよせてくる
 ああ、もう
 すっかり角ゴシックの
 ゴツゴツした石になった気分

 ふいにたぶんさり気なく踝のあたり
 耳もとでささやくように
 ハデな
 波状になった紙ではなく
 たやすくにぎり潰せない皮革みたいなものとして
 メランコリーは居つくにちがいない

      *

 ファブリーズを撒いてもとれないの
 と、表の顔で女がいう
 においがふかいところまで到達しているからだ
 うちの
 風呂場のタイル目地が
 磨いてもみがいてもきれいにならないの
 と、化粧の顔で女がいう
 よごれが
 ふかいところまで到達しているからなのだ
 のがれるのでも
 迂回するのでもなく
 ひとが
 ふかいところにまで到達するには
 メランコリーよりもっと
 どれほどの分量のふあんを所持する必要があるのだろう






自由詩 石の気分で Copyright 石川敬大 2012-09-12 17:49:08
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