牢獄の女
田園

牢獄が私の家だった
手枷をジャラジャラと鳴らし
監守の持ってくるまずいパンと汁を待つのみの
私はそんな女だった

ある日
男が来た
男は理解できない言葉を
とても丁寧に話していた
だが私は何を言っているのか分からないので
ずっと下を向いていた

その日から男は
数分程度だが毎日来るようになった
そして理解できない言葉で
私に語りかける
私は下を向く

繰り返した
長く長くそんな日々を過ごした
ふと
私は自分が男の来訪を待っているのに気が付いた
人が居る心地よさを初めて知り
狼狽えた

また
男が来た
私は思い切って顔をあげた
男は黒い肌にシンプルなシャツを着ていた
あらためて顔を見たのは初めてだ
眩しくて
また下を向こうとしたら
「あいしています」

耳が
心が
体が
魂が
螺旋階段を落ちていく


なんと言った

なんと言った

監守は何かを男と話し
私を牢獄から出した
手枷も外された
何も理解できなかった
今までの男の言葉よりも理解できなかった

ただ
男の視線がやけに優しげで
私は信じていいのか
信じてはいけないのか
戸惑い
睨んだ

だが男はまた
「あなたがすきです」


睨んだ

男はほほえんだまま

私は
私はもう
奴隷ではないのだろうか

そう思うと

男の柔らかな表情を見る

何故

その問いは答えが見えないが

流れてみようか

そう思った

まだ 
笑えないのだけれど



自由詩 牢獄の女 Copyright 田園 2012-09-04 11:11:56
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