夜ドライブ
小池房枝

元々無口だった相方が
緘黙症を始めたので
普段は週末にしか行かない川までドライブ

口は利かないが運転はしてくれるので
平日の深更に夜ドライブ

昼間の言葉の行き場がなくて
叫ぶ場所とて街にはなくて
ガラス瓶を叩き割りたい気分
缶の炭酸を火であぶりたい気分

川べりに行って
何を叫ぼう
何と叫ぼうと思いきや
ゴイサギに先に叫ばれてしまった
グェッ

あとはもう
ゴイサギごめんねー
ウシガエルごめんねー
コチだかシギだかわかんないけどごめんねー

大声で叫びながら
どぼんべぼんと石を投げ込み続けた
投げた小石が島になるまで続けたかったが
手の届く範囲で手頃なのがなくなってきて
探る手も掘る手も疲れてきて
それでも

遠くを終電車が通れば
でんしゃー
飛行機が飛べば
ひこーきー
対岸のウシガエルは平気で鳴き続け
うーしーがーえーるー

ぼしゃらーん

それでも相方は緘黙症を止めない
それでも月夜にただつきあって
そこにだけはいてくれる
星が動くのがわかる時間ほどいてくれる
いてくれることしかしない

川の音
月明かり
虫の声
おんなじ

どぼーん

引き起こしてもらって
また運転してもらって部屋へ帰った
やっぱりずっと
何も話さなかった


自由詩 夜ドライブ Copyright 小池房枝 2012-08-30 02:30:08
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