ファネーチカ
発音が響く
茶色い地味な装丁の教科書
やわらかいO(オー)とЯ(ヤー)
教室の端と端
長いすにかける
座り姿が美しい
ハラショー
鳩は飛び立った/極寒がやってきた/車庫があく/樫の葉が散った/いち年とひと月/
樫とシラカバの樹
スネェーク
季節は冬/朝から雪が降っている/「ぼた雪に近い、黄色い、にごった雪だ」 *(C)
寮を出て文学校舎に向かう遊歩道も一面の雪化粧に包まれた
生徒の姿はまばらでつけたばかりの足跡はすぐにかき消されてしまう
шаг(シャーク) шаг(シャーク)
きしむ足取りも軽く
一限目
一番前の
一番とびら側に近い席で
一番はじめに当てられた
舌を使う授業 なんて
ぼくには2つのエルを唄い分けることもできない
”マリーナ グリービィ マリナバーラ
マリーナ マリーヌィ ペレビラーラ”
――ニェット!(力強い否定)
――ピリビルァァァーラ!
*
レモンを刻む/私の友達/金は要らない/きのこを探した/明るい雪の中で/
明澄な文体の中で
インタラクティブ
ぼくはオーリャが気になっている
オーリャもぼくを気になっていて
ほしい
明澄な文体の中で
やわらかいO(オー)とЯ(ヤー)
ハラショー
唄うように続けた
”シラー サーシャ プ シャッシェー イ ササーラ スーシキ”
――ニェット!(力強い否定)
――スゥーーシキ!
*Copyright(C)ドストエフスキー『地下室の手記』(江川卓訳)新潮文庫 All Rights Reserved.