美しいひと
はるな


むかし熊だったころの話をすると
わたしの手あしの毒虫に噛まれたところがどくどくと痛むので
これはむかし熊だったころにも同じところを噛まれたのだろうなと
予想できる

それくらいの頭で
手に入れた見晴らしを
はたして貧しいと思うのかどうかは
それはひとに任せるけれど
やっぱりわたしは
素晴らしいと思うときと
死ぬくらいにみじめだと思うときと
いるもいらないもどうでも良いようなときとが
同じくらいにあるな

たぶん



想像できるのは
わたしがはじめてみたとき
君がとっても美しくて
とてもたちうちできないやと思ったけれども
それでも年をとって強くなっていって
わたしも、
周囲も、どんどん
美しくなった
そのときに君は
最初の美しさからみじろぎもせず
わたしがどんどん美しくなっていくなかで
みじろぎもせず
でも
想像できるのは
そうやって手に入れられる武装が
またどんどんさびれていくときに
君はやっぱりその美しさからみじろぎもせず
いるんだろうな

むかし熊だったころの話をすると
それはだんだん先の日常へつながっていって
自分がこれから熊になるのだという感覚になり
おおきな輪の内側をひたすら歩いて
(歩かされて)
いるような心持になり
それがまた
安寧であるときと
吐き散らすくらいいまいましいときがあるのだけど
どちらでも君は
同じように笑って
熊のなごりのようなおおらかな手足を
のばして鳴きます



自由詩 美しいひと Copyright はるな 2012-08-24 12:32:15
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