八月は花の葉月
小池房枝

彼岸花 今年も此処に出でますと細き緑の指を以て告ぐ
 
人の手が触れた花 まだ触れぬ花 被子植物の性器偏愛
 
台風の朝にも咲くべき朝顔は咲かねばならぬ咲くことは出来る

ほろほろの萩の葉 紅い萩の花 風を集めて揺り零している

君たちにまさか花屋で会うとはね 吾亦紅 今、我も山を恋う


四季咲きの盛夏のミニ薔薇ミニマムな花を結んでひらいて結んで
 
夏草に紛れて細く金色のつやつやつんつんススキにキスする

真横からの夕日を浴びて森の中 キツネノカミソリ 夕べの灯し火

ひまわりが電信柱につながれて重たい実りの首かたむけてた

烏瓜や槐や狐の剃刀の道から外れて住んでてさびしい

 
七草の撫子小さな鉢植えが花屋にたくさん並んでいました

天神のビルの谷間でクスノキはロープで大事に支えられてた

夕刻のアスファルト赤い百日紅ばたばた落ちてる暑かったんだね

夏枯れのアジサイのかげの紫はクズかな処暑をすぎて咲いたか
  
秋されば金木犀のにわたずみ夏にはエンジュを踏みしだき行く

 
ムクゲ、ユリ、アサガオ今日は真っ白な花ばかり目に飛び込んでくる

一昨日と昨日たくさん咲き過ぎたアサガオ今朝は力を溜めてる

田を渡る風をよしと思う水稲の生育つつがなきゆえにこそ

仄暗く光る緑の星数多落ち転がってる山栗の小道

葛の花 日ごとに落ちて色あたらし 翁のゆきし道はどの道
九州は玄界灘の壱岐の島を訪ねた際、裏道の山道を登りつめた先に、思いがけず釈迢空/折口信夫の歌碑を見つけて驚いたことがありました。ややこしい農道を辿って洞窟に蝙蝠を見に行った先の出来事でした。

葛の花踏みしだかれて色あたらしこの山道をゆきし人あり





短歌 八月は花の葉月 Copyright 小池房枝 2012-08-21 15:33:24
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