ミミズ千匹

 いつかプロトコルを委譲する伝達飼育員が
 アバラをひっくり返して心臓を剥き出す
 なみなみと湛えられた

 骨はつぶれて
 内臓も空っぽで
 血管と皮だけが残った

 血はなくてもあっても血だった
 かたどられてさえいれば
 それは血だった 

 通信やがて
 エニグマよりヴォイニッチ
 ラブレターさえも
 ケーブルを突き刺した手紙同士がひそひそ話を始める

 破瓜症に直結する
 時系列を犯す穴倉のよどみ
 ざわめき声の蛇
 ぎらついた悲鳴がビュンビュン飛び回る

 整理券を売りさばくには時間がかかり
 男の子は指を吸う
 ピアノだって弾けた、ギターだって
 あの子の唇だって触れる

 赤信号を飲み干す、巨大な黒い太陽
 モールス信号みたいな生死
 マッチのきらめきよりも泣き叫んだ

 雑踏が伝令される
 剥落した皮膚の傍に手向けられた
 男の子の幾千の指が行進する

 けむり、血まみれ、空の肌色
 手紙でできた飛行船が墜落する
 爪に生えたひとしずくが転がる


自由詩 ミミズ千匹 Copyright  2012-08-14 17:20:32
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