にぎわし日
田代深子



かな小父の通夜はにぎわい
三弦と木魚 お宮の龍笛をひきあいに
かな小父の唄と三弦曲かれこれが寄って
大ざら酒瓶もたたかれる とむらいの夜
かな小父がわたしにくれる遺物 掌が
その壺の肌に濡れ衣のようにすい着いて
こよが隣で紅もなく赤い唇を締め息づく
わたしを見ずに見ている 震えては
ならなかった

いろの濃い菓子を子どもらにわけては
おまえは
ほんとはおれの子だ おまえもおれの子だ
こよもわたしも
言われた母親たちも父親たちも言われた
わたしは笑う ならその壺をわたしに
かな小父が死んだらその茶壺を
その子のわたしに
かな小父は三度うなづき茶壺を逆さに振る
黒い小さい手が板の目にころりと
こよのひざの前に
ほそい黒い指に爪がそろう親指のまるく曲がり
よん本の指がゆるい空待つかたちの
小さい黒い手 わたしはその手を
壺に納めた震えてはならない かな小父は
また三度うなづく
おれのむすめは学問をしにでかける
はじめて板間に額づいた こよの息づかいを避け

お宮わきに板の間ひとつ
戦争が終わってひとり流れきた子が
七十年 親ゆずりの三弦を鳴らし
あてがわれたなりわい薬まき獣とり土運び
三十年 背をいためて修繕と古物をさばいた
流れきた紅木棹の三弦
在の小母らのふるした衣にやわりとくるみ
蓋かけの志戸呂茶壺ひざに抱え肩をくゆらし
鳴らすのどの延年の唄
すべらかなる指かわきたるみひかる皮膚の
三弦をつかう指おとならす指の


にぎわうとむらいの音曲
かな小父に名残の三弦

おれは行かない おまえと同じには
行かない
こよの
むすめのような唇に紅を塗りたいと
そのおもてに延ばす指の先の
空となれ影が震える



             田代深子
             2003.7.5



自由詩 にぎわし日 Copyright 田代深子 2003-10-24 10:57:10
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