怪しい料理教室
梅昆布茶

僕の冷蔵庫ではつぎつぎとものが腐ってゆく
賞味期限は半月前は当たり前野菜は黴としなびで
使い切れないぞ独身奇族

そこで整理もかねて古い野菜をかたっぱしから検閲し
余命少ないあるいはアンチエイジングに失敗して干からびたのは
静かにゴミ箱へ送る

そして母の遺品のステンレス包丁で切り刻んだり
首を刎ねたりピーラーでもって生皮を剥ぐ快感と言ったら
サド侯爵でさえ見学に来るだろう

それに残ったこんにゃくとかウインナーとか
化石に近い乾ししいたけとか
もらったトーフやふえるわかめ

たまにこれに冷凍のコロッケを溶かし込んでとろみをつけたりする
味は味噌が多いがこのベースでアレンジすれば
カレーだってシチューだって中華味だってできるはず

一鍋つくれば三回ぶんぐらいのおかずにはなる
文句をいわなければ十分生きていけるし
文句をいってくれるひともいない

もうひと手間でサラダか酢のものかあるいは
からし酢味噌で食べる蛸などあればもうしあわせだ

ふだん薄幸な人間は飽和するのもはやい

記号料理論というのをねつぞうしてしまえば
あの可愛いにんじんや色黒の泥つきごぼうやら
記号素のざわめきが背景に退くときに

人間の経験の連続性を保証する記号としての
怪しい料理が日常のなかで
ひかりを放ち始めるのだがしかし

それはともかく
ときどきは誰かにつくってほしいと
思うのはせめてもの哀しい抵抗なのだろう






自由詩 怪しい料理教室 Copyright 梅昆布茶 2012-08-03 02:01:52
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