ピーク
あおば

                 120729

ピークチト
ジッコウチの違いを知らぬ中学生は
壊れてしまったメーターの指針を眺めたままため息をつく
無酸素も極めたし
いくつものピークに達したから先が無くなったと
体力が有り余っている青年登山家は空を見る
青空に分け入ってその身を空の高みに置きたい
そう決心したので登山靴を脱ぎヘルメットも投げ捨てて
ピッケルだけを握りしめ
ピークからジャンプした
次々と現れる凍った雲のハジッコにピッケルを突き刺しては登って行くと
白い塊のような氷が浮かんでいるのが見えた
このように重力場に於いても氷は空に浮かぶことができる
氷とほぼ同じ密度の我が身だって空に浮かぶはずだと
ピッケルも放し
集合する雲の峰に飛び移り
姿を消した
一部始終を見守った仲間たちは
眼をぱちくりして再び仰いだが
空はいっそう青みを増して高度を高め
もうジャンプしてもピッケルで突き刺せるような柔な球体はどこからも現れない
気象状態が急変したからだと信じられていたが
憲法草案を握りつぶした者たちの邪念が空を硬直化させたのだということは
当時はまだ知られていなかった
彼岸から此岸への徒歩連絡も可能となった現在でも
オリンピック中継を好きなだけ堪能するのは地上波だけでは難しく
権利と権威の浮遊する空間では青い空も硬直化を進め
もはや、軽装になっても飛び移れなくなっていると感じた
近代化の歩みの中で硬直化が進みながら
落下するほどに比重を増した空の構造体がまだ浮かんでいられるのはなぜなのか
表彰式の片手を上げる勝者の笑顔を見ながら考えている。



自由詩 ピーク Copyright あおば 2012-07-29 23:38:44
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