段々と
千月 話子

花占いをする少女の背中から
日向の匂いがしたりして
指先からこぼれる花びらがオレンジで
昨日降った雨の湿土を
温かく変えて行くのは
その答えが「イエス」だからなのでしょうか

お幸せに 少女よ
木漏れ日がひとつ落ちてきたので



高架下で「バカヤロー!」を
電車の轟音に乗せて旅に出した少年の
怒気は地の果て
終着駅の凍る湖に放られて
たった十センチ四方溶かして消えた
下り普通電車がのんびりと
「君の怒りなんてこんなもんさ。」と
歌うように走り去ったのは
君と君が笑い合った午後三時

穏やかな少年よ
今日初めてマフラーを巻いたので



高い屋根の軒下できれいに並ぶ
小鳥のおしくらまんじゅう
風も雨もこれで平気さ
体温のふわふわをくっ付けて数珠つなぎ
話を聞かせて 話を聞かせて
暖かい国の話を聞かせて と
口々に言うものだから
ガラリと家主が窓を開けた
バラバラになった玉が矢印になって
次の宿を目指して飛んで行ったから
急に寂しくなった家が少し冷たい

丸いスズメよ
冬の姿が一番可愛いので



昨日の薄着が今日は寒いよと噂をして
二回ほどクシャミした

昨日のなで肩が今日は少しだけ上に上がってた

羽毛布団を背負い
夢は空を行く渡り鳥で
風を切って翔ける体はそんなに寒くないのに
鼻先だけ赤くなっているのは
無防備な額から流れる
体温調節のお試し期間だったりして



そうして この頃私達は
段々と 暖々しています


自由詩 段々と Copyright 千月 話子 2004-12-11 16:27:24
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