黒アンモナイト記
salco

さかんに水が降りますね
明日に蓋でもするように
おびただしく注いでおります

地面の下はどうなっているだろう
私はこんな時決まって
泥濘に埋もれた兵士の白骨を連想します
それから恐竜の化石とか
みな雨に濡れていましょうから
消え去った者どもに感応してしまいます

江戸では汚れた箱枕に頭を乗せて
廓の女もこうして大雨を聴いていたでしょう
多分、里の親きょうだいの暮らし向き
恋しい男の身の振りや
それから寺の絵草子で見た、
もっと昔の女の境遇なんかを想い
なぐさんでいた筈

雨はもう10億年間降っています
この星の中心には巨きな巨きな洞があり
そこまで水は届きませんから
きっと圧縮された堆積の質量が
赤のきりんや青の半島となって
ぐるぐる、ぐるぐる、回っているに違いない

そこにはまた銀の大滑り台があり
月の夢やら太陽の花やらが
周りを咲き乱れているのですよ
だって、この星は夢を見ているのですから
滅んだ森林や湿地の時間をしまって
ほら、遺構ばかり地表に現われてありましょう?

水は、過去へ過去へと流れます
巨きな巨きな大洞の上方、1千メートルほどに
地下水路となって循環し
果てない循環に循環を循環し
ですからユカタン半島はおおよそ晴れているのです
今から27年後に生まれた、
赤い服を着た4歳の私が遊んでいますよ


自由詩 黒アンモナイト記 Copyright salco 2012-07-21 00:09:01
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