ぬり絵する女
salco

春が来るたびに
色が褪せて行った
女はテーブルに きいちのぬりえ を開き
サクラクレパスで塗って行く

夏が来るたびに
心が剥がれて行った
何ひとつ帰り来ぬ家の 何ひとつ得られぬ部屋で
くすんだ顔に笑さえ浮かべ

好きな色で好きな色で好きな色で
かわいらしくかわいらしくかわいらしく
線画の少女に世界をこさえてやる
十六色で施して行く

雨が降るたび
輪郭が失われて行った
今日のさっき が昨日と連れ立ち明日の崖から身投げする
女は塗りこめて行く

何とも知れぬ面影を
いつか見た空 空の青 空の青
チューリップの赤、チューリップのチューリップの
ちょうちょの黄色ちょうちょちょうちょ

陽が射すたび
女は消えて行く
衰えた指で泡立つまま幾重にも幾重にも交差した色彩は
灰の靄 拡がって行く


自由詩 ぬり絵する女 Copyright salco 2012-07-03 23:26:20縦
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