時計塔
itukamitaniji

時計塔

街にはとてもとても大きな 時計塔があった
それは街のどこに居ても 見えるくらいノッポだった
今日も大きな鐘の音が 時間通り町中に響き渡る
誰もが愛すその音が 彼女は大嫌いだった



白銀のお城みたいな 病院の部屋で彼女は目覚め
自分が居ない街の風景を いつものように眺める
彼女は時計が嫌いだった だから部屋には時計がない
当然あの時計塔なんて 無くなってしまえば良いって

迫りくる死神が わざわざカウントダウンしながら
迫ってくるみたいで 時々怖くなることがあるのよって

いつも彼女は言っていた その度に彼はいつも
そんなこと言うなよって なだめることしかできない



時とともに彼女の体も どんどん弱っていって
あんまし笑わなくなった むしろ笑おうとしなくなった
時計塔の鐘が響いて またひどく不安になる
彼女は耳を塞いで ぶるぶる震えて怯えた

そんなもの無ければ良い 彼女が苦しむだけなら
僕らには不必要なだけだって 彼は夜の街を駆ける
ハンマーにバットに鉄パイプ とにかく何でも良かった
とにかく全部壊したかった 時計塔の頂上に立って 

我も忘れ喚きながら めちゃくちゃに叩きつける
汗まみれ血まみれの両手も お構い無しに
時間よ止まれ時間よ止まれ いつの間にか泣いていた
彼女を苦しませるだけなら こんな音も時間も要らない



そして時計塔は 音を立てて崩れ落ちてゆく
もう1ミリだって動けない 彼を飲み込んで
消えてゆく意識が 完全に失くなる最後の最後まで彼は
彼女の笑顔を祈った もう見れない彼女の笑顔を祈った





何だか今日は騒がしい 街の風景を眺めて
笑わない彼女は いつものように待っていた

いつものように彼が来るのを 彼女は待っている


自由詩 時計塔 Copyright itukamitaniji 2012-07-01 00:15:20
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