シノハネ
平井容子








なにもかも
粉砕
ナイフでは永久に
無理な救いと
手を
つないでいた
椎間板を守りながら飛ぶ
ポリゴンの鳥が
ひきずりだした
わたしたちの赤い国旗
万歳のあとのやけど
しみだらけの胎から
のぼってくる朝日へ合掌して
水鏡に映えた翌日を殺した
指先でつくれるものはたかが知れて
それらしく
光った

多重録音から抜け落ちた
言葉足らず
それでも意識には翳る月日
枝でぶった月が
それでも健気にゆれた6月
つかのま展開した日記のなかで
ひからびて
すべて見せることにも耐えていく
遊ぶように草のうえで締まっていく
よい器が語るひどいはなしで
弦の恋人はまっぷたつ
腱の両親は赤の他人
罪人をくるむ包装紙
電波ジャック
吐血するリス
モヘアの虫
わたしが死んだ部屋に飾られた
青い輪転機

感触は誤解で
帯状発疹のあとの水浴びが
すべてを押し流す
舌に空いた穴から
太いペンが生えてくる

たっぷりと用意された祝福のベッドで
遊んでくれてありがとう
消える
消える
消える
 結ぶ
消える
消える
消える
手折る
消える
消える
消える
よじれる
よじきれて
よじきって
ああ
ああ
ああ
ああ
ああ
遊んでくれてありがとう
遊んでくれてありがとう
ずれたところからずれて届く声で叫んでも
赤いあぶくを吹きながら
達成する
無意味

なぜここまできたの
壊れたペダルを踏むかかとに
くらいついていたいね
なんていうたびに
皮膚がめりめりと敗れた
さしでがましい髪をつかんで
埋めるようになめた
「それがわたしのほしい全部です」
見えないのは目がつぶれているから
とても単純で美しい道理にかなって
どこまでも複雑なねむりに惑った
裂いても!
頭がぐんぐん伸びていく
なんて醜い影のかたち
膝をひらいた影絵になって
そこに飾られつづけるなら
雨にも燃えるふさぎこんだネジになる
かろうじて生きながらえたら
きっと
身体はいつだって生臭いもの
いくらリストアップしても足りないもの
それなら数えなくてもいい
分解すればいつだって
予想より多くなれる
それでいていつも
ひとつ足りないままでいられる
きっと

捥いだらいいのにそっとして
咳のおくで差しだしてひったたかれる
まぶたに引いた飛行機雲が
胸の頤をねぶってひらく
ともなわないで
歯が砕け散る夢を見たら電話する
確率ですべてが無にかえる
「切る」
「貫く」
「ひっぱたいて」
「身にまとう」
耳を失ったら
音が聴けるようになる
果物が腐る声を
羽に八重歯が食い込む声を
まばたき
一瞬だけ瞼がかみあって
そしてまたほどける
その間に
いくつかの
視神経の
詞と
視と
私と
賭して
通して
透して
粘膜で吸う
まどろみの音を
唇から放つことも許される
許されたくて吐きそう
くぼんだてのひらに愛を溜めて

地面を這う白い黒蟻が
足を伝って頭から抜けていく
顔のない恋人たちが町中で倒れている
全焼しちゃったおうちのなかで
おかあさんがドーナツに水をやる
おとうさんは眠っている
おにいちゃんがセックスしている
わたしたちは二人ぼっちで
なにかとても些細な骨が
のどのおくに刺さっていることを自覚した
それっきり
どこにも帰れなくなった

盗ったものでできた盆に
ありったけの赤い林檎を詰むごっこ遊びが
ところどころで広がってそして尽きる

一番おおきい爪の下で
ふたしかな悪意が育っているのを感じたね?
熱いのに寒くて
病気なのにささやかな幸福
一番ちいさい爪はもう剥いでしまった
たしかな正気が欠けていくのを看取ったね?
どちらも不正解
5cm浮遊したままで
埋葬されたい
その手で

まだ息してる
主催者に見下されながら祈っている
キッチンで葉書を食べる
癖で曲がった唇で
せぐりあがるのどをふさぎ

変な坂を一目散に下っていく
100年寝ていない、という名前の靴で
変な坂を一目散に下っていく
手がいっぱい生えてきて
蜘蛛みたいだと
笑っている
空気が震える
祝福されたままで
どこへでも
沈んでいける




加速する景色が
わたしを燃やしている
血色を失った
いらない手足を捥ぐかわり
悟られてはならない羽がある
「即した」
「奪った」
「焦がして」
「抱いた」
そろいもそろって
処分待ち
「空洞で満ちているところをいつか見せてあげられる」
「わたしたちなら」
横たわったまま立っていたい
醒めながら眠っていたい
痛みながら救っていたい
なにもかもを砕きながら
まだ保たれていたい
こぼれたナイフで救う手の
つよさとはなんだろう
類焼するカンバスに一対の羽を足して
ただただ泣いた










自由詩 シノハネ Copyright 平井容子 2012-06-27 00:51:56縦
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