永乃ゆち

私は寂しさを知らない
寂しさを知るには温かさを知らなければならないから

温かさの中にあってそれを失った時
初めて寂しさを知る事になる

私は温かさを知らない


優しい人たちを遠ざけて生きてきたのは
それに慣れてしまう自分が怖かったから

柔らかさの中にあってそれを失った時
初めて苦しさを知る事になる

私は苦しさを知らない


ただひとつ言えるのは
私には喜びも安心もないという事

そして必要最小限の愛情さえ
私は持ち合わせていない

あの人を見て眩しく思うのは
自分には到底持つ事のできない煌めきを
そこに見つけたから

それを愛と呼ぶならそうかもしれないが
情熱や憧れと言ってしまえばそれまでの事

あの人に詩を贈ろうかと思い書いてみたら
それは脅迫になってしまう事に気付いた


何を基準にして良いのか分からないが
私は人を愛せないのだと思う

愛された事がないから

最初の優しい記憶は色褪せた写真の中にあって
それはまるで他人の写真を眺めているかのような
遠い眩暈すら感じる

愛されたいとは思わない
愛がどんなものか知らないから
私を押し潰し崩壊させてしまう物のような気がする
私はそれが怖い


私は優しくなくて良い
私は愛を知らずにいて良い
私は真っ暗な中ぽつんと一人立ち止まっていれば良い


いつか誰かを愛した時
いつか誰かに愛された時
自分が壊れてしまうんじゃないかと思う


私は私のままで良い
優しい人たちを遠巻きに見て
きらきらとした煌めきに目を伏せながら
独りうなだれているのが
お似合いなのだ


自由詩Copyright 永乃ゆち 2012-05-30 16:19:26
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