キズという名の獣
水町綜助



どうしても舐められない背中に
傷がある
猫がひとつ
街の中に座ってた

首もとまで
コートを閉めて
冷えきった青
ブルーとは、
本来冷たい色なのだと
冬の終わるいま
あいまいな人は思い

首を
回して
舐めようとしているが
どうしても届かない姿に
少し強さを増してきた日射しが
まだその猫の毛の白い部分を
緑色に目に焼き付くほど
光らせているのを
目を閉じて
焼き付いた像を
その粒子を一粒ずつ
かき集めて
自分の中に埋めようとしている

猫は背を向けて
何かを追うように
宙をあおぎ
傷あとが見えるが
手の届く距離ではなく
コートのポケットに入れた手には
なにか固いものしか
当たらない

少し歩き
猫のやわらかい耳を
手の平で寝かし
包むように頭をなでて
背中の毛をゆびで
かき分けて
そのほか無数にある傷を
見て
なにができるだろう
癒着した
赤い
まだ血のこびりつく
薄膜を張ってはまたひらく
そして鳴き声

ただ白いところだけをなでて
できるだけこのコートの中で
あたたかくして手を
肌を柔らかく
そして撫でても
猫はくすぐったそうに逃げるのだ

その行き先のように
季節は春へ向かっていく





自由詩 キズという名の獣 Copyright 水町綜助 2012-05-21 23:45:50縦
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