かげぼふしのありくくに
salco

 齟齬の由来

影はいつも
動く舗道の上
坂もスルスル
ずるいね
こっちは歩いているのに
考える人はこっちなのに
のっぺらぼうの頭の方が
よっぽど考え深げ
憂わしげだ
「そうね。死体に影は生えない」




 かげぼふしのありくくに

へらへらと空から
足元にビラが舞い落ちた
拾って読めば頭脳に沁み込む

『このさきはかげぼふしのありくくにです。
 そこではあなたのしゆたいせいなぞ
 かげぼふしにすひとられてしまふのです。』

市場の取っつきには
筵敷きの陰門おんなが座ってい
鮑そっくりなびろびろの肉顔の真中から
イクラみたいな卵子を毎日ひとつ
客と見定めた相手に取り出し売りつけている

「買っておくれよこの子は別嬪になる分だ」
「きっと働き者になってあんたに恩返しするからさ」
「いえね、うちは亭主がなまくらだからもう子は要らないんだ
 居れば物入りでしょうがない」

つい
損壊の抉り傷みたいな陰門おんなのべろべろ言うなりに
卵子を買い食ってしまった
ほら、いちばにはかげぼうしがゆききしてい
ここではわたしのしゅたいせいなぞ
すいとられてじったいがなくなってしまう。


自由詩 かげぼふしのありくくに Copyright salco 2012-05-13 22:24:26縦
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