運送
石川和広

これだけに物申したいことがあっても、冷凍倉庫の中で、この三十年間、だろうか、それは幾筋もの、午後の曳航にも似た、時間の影像パックが、幾本も幾本も、まとまらないチューブ。
素手で、触ると張りついてしまう。
つめたいから
つめたいから
つめたいから
私から感じて、この傍観服を脱ぐと、私は、皮膚が凍りついって、ただれてしまう。

確かに、鍋を囲む、あなたたち血をわけあった似苦肉人たちよ。
私の魂は
あなたたちは暖かいと信じているのが
着火する
煮込む
取り皿
わかるのだが、感覚は、空間に息をねじ締めるまで伝わりますよ、私は。こんな言い方、長にはしたくないもの。
だからって
私に暖かさは

いつどこでだれとなにをしたかマトメラレナイ
全ては詰問なり
言葉は暴力なのに
それで
火を囲み始めて
したたらせあうツバキの

私はあなた方と同じではないもの
そしてなんとしても似ていると思わなければ、同一性を確保しながら
離脱して行かねば
私が言葉を放棄した、この冷凍倉庫にはりつきつつある皮膚は
あなたたちとともに見ながら、お互いが決定的に違う石の神に
願いを託していたので

ある人は言った
人間は感覚の束だと
しかし浮かぶ印象の潜水艦、あやめ池に浮かぶ若葉
スケートリンク、これらを一束にしている、この傍観服はもうほころんでいて
死んだ悲しみがチックとなりウメキとなり
喜びながら私は溶け
言葉を書き
違う
違いすぎること
あなたが生み育てた心が、引き千切れる痛みの痒くなり往く
だけれども

あかしだてるのだ
殺し合う言葉の中で

やはり言葉はネガフィルムではないのだから
私は「ことばなんて覚えなければよかった」とは
やはり
思えないのだ
なぜ暗がりの中に何もかも捨てたがる

またメールを打った
三千世界から、よくわからない不法投棄場所を巡り
さまざまな言葉状の液体の流入を
笑ってサーフしながら

私が染み出しても空っぽにはならない

なぜだか、暖かい
これだけを守って
陸海空
自転車を走らせてきた

だからも
けれどもない

私の魂なんかとりたくもないだろうが
歩き始める端から、汗がおちてくる
冬らしいのに

手渡すこの手に
しなびた豆がただひとつ


自由詩 運送 Copyright 石川和広 2004-12-06 18:36:47
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