春のリート
橘あまね


新しい暦が生成している
遠い国で洗い上がったシャツの匂い
ためらいと高揚
背中に触れる唇の温度
インディゴに溶け込むマゼンタ


梢たちを過ぎて
吹き下ろす視点から
成長を止められないぼくたちを
慈しむ存在がある
進むことしかできないぼくたちを
愛しむ存在がある


作りたての羽毛
蒸気の分子は影と光を曳いて
あおく、あおく群生する祈りを
あかく、あかく包含する恵みを


繰り返すよろこびと
見送るかなしみ
引き連れてあるく
くらがりには星


遠く放たれて
輝きを弱める貴石たち
真空へとなずんでゆく
折々のポケットにあわく灯る響き


花々をゆする風に
宿された命を燃やす
離れ離れの1000の歌を
この胸にあつめる


自由詩 春のリート Copyright 橘あまね 2012-04-12 16:16:36
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