わがままな侵食
千月 話子

月 太陽 侵食 やがて三日月
  雲が形を変えて流れるスピード いつもより速く
  そんな日は風が冷たい もうすぐ冬に浸る体温
  温もりが恋しい と 手足が騒ぎ出しそうだ



夜11時に爪を切るおまえの指に 半月が親指だけ出てた
熱中する仕草に指先は 熱を灯してピンクに浸る
そっと後ろから近づいて おまえの背中を侵食しても
睫毛はピクリとも 揺れることもない


  最後に残った左の小指の小さな爪を切らせてくれよ


弾き飛ばされた欠片みたいに ほっとかれるなんて傷つくぜ


  最後に残った左の小指の小さな爪を共有しようぜ


月明かりに照らされた この部屋に2人しかいないんだ 2人しか


くっ付いた背中と胸に丸く広がる体温を測ったら
きっと 俺 の方が熱いんだろう
 おまえから伝わる鼓動が のんびりと聞こえる
少しは ドキドキしろよ
 と思いながら ぱちん と最後の爪を切った



深爪が おまえを侵食してく 
こんなことで おまえの鼓動が早くなるなんて
深爪が おまえを侵食してく
ごめんよ

俺の指をおまえにやるよ この部屋に2人しか居ないんだ
おまえは少し考え込んで 嬉しそうに笑ってた


お願いだから夜に爪を切るのは もうやめてくれよ



自由詩 わがままな侵食 Copyright 千月 話子 2004-12-04 16:42:44
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