わがままな侵食
千月 話子
月 太陽 侵食 やがて三日月
雲が形を変えて流れるスピード いつもより速く
そんな日は風が冷たい もうすぐ冬に浸る体温
温もりが恋しい と 手足が騒ぎ出しそうだ
夜11時に爪を切るおまえの指に 半月が親指だけ出てた
熱中する仕草に指先は 熱を灯してピンクに浸る
そっと後ろから近づいて おまえの背中を侵食しても
睫毛はピクリとも 揺れることもない
最後に残った左の小指の小さな爪を切らせてくれよ
弾き飛ばされた欠片みたいに ほっとかれるなんて傷つくぜ
最後に残った左の小指の小さな爪を共有しようぜ
月明かりに照らされた この部屋に2人しかいないんだ 2人しか
くっ付いた背中と胸に丸く広がる体温を測ったら
きっと 俺 の方が熱いんだろう
おまえから伝わる鼓動が のんびりと聞こえる
少しは ドキドキしろよ
と思いながら ぱちん と最後の爪を切った
深爪が おまえを侵食してく
こんなことで おまえの鼓動が早くなるなんて
深爪が おまえを侵食してく
ごめんよ
俺の指をおまえにやるよ この部屋に2人しか居ないんだ
おまえは少し考え込んで 嬉しそうに笑ってた
お願いだから夜に爪を切るのは もうやめてくれよ