陽春のひと
恋月 ぴの

おさんぽカーには幼い顔が幾つも並び
桜の木の下をゆっくりと進む

時おり吹き抜ける風の冷たさに

ぐずる子がいて
あやす保母さんの肩には桜の花びら舞う





手を繋ぎあう子供たち

ちいさな手のひらで伝え合うのは
ぼく、ここにいるよって証し

君と一緒だよって証し

それなのに泣いている子には無関心なのも可笑しくて




これから児童公園でお花見なのかな

わたしの初恋はお隣に住んでた男の子にだったらしいけど
今となってはさっぱり覚えていないし

おひとり様のお花見は
遠くから思い思いに寛ぐ家族の笑顔を眺めるだけ




子どもたちは神田川を渡る橋に差し掛かり
保母さんの指差す先には

桜色に染まった日差しを横切る燕の羽ばたき

そして、わたしは前カゴに入れたままの届け物に気付き

悪戯な風に舞うフレアスカートの裾を押さえた







自由詩 陽春のひと Copyright 恋月 ぴの 2012-04-09 19:11:53縦
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