三月のマーチ
小池房枝

彼岸桜優しげに咲く此岸かな

野に遊ぶさも値段高そうな猫

イヌノフグリ閉じてぽろんと今日でおしまい
 
産卵を済ませて二度寝のヒキガエル

コーヒーの記憶 取っ手のとれたミル
 
手袋をし忘れた手に触れる夜気

イザナギは神、オルフェウスは人でした

春を待つ座敷わらしと赤いじょじょ


たらちねの直黄ひたきミモザは子沢山

白き指ひろげて風を梳く辛夷

トラのバター陽に溶ろけきって黄水仙

お彼岸に連翹 南無妙法蓮華経

緑なすヤナギ美容師に結われたかろ

咲く春はありおりはべりいまさかり
 
オオイヌノフグリは青いbuttercup

春に咲く椿と春に散る椿


銀色のアラザンひとつぶパブロンと

咲く前の桜に触りに行きたいな

粉雪が舞います明日はホワイトデー

スミレたち初咲きてんでに一斉に

「種の起源」花の起源とその期限

桜貝いちごのジャムの空き瓶に

温かな夜風に滲むオリオン座

ヒヤシンス咲くとなんだか威張ってる


雪まぐれ一反木綿が飛んでった

静々と沈む三日月セッキ板

暮れる空アオまたアオと鳴く烏

金色のちいさき舟よ春の月

明星に舫う三日月揺れもせで

やぁと言えばにゃぁとも言わぬ他所の猫

詩人です名乗ってみちゃってさぁ大変

詩人だなっ!砂かけばばぁ問答無用


ハナアルキ日本の春を見においで

黒潮にのってハイアイアイ諸島

布団から耳だけ出して猫涅槃

いつまでもとっておきたい林檎たち

地球へと落ちたがるリンゴ遮る手

烏羽玉の姉妹が抱くグロビュール

八雲立つ創造の指ワシ星雲

幼虫が五匹やわらかな薪を割る


消えていく熾き火の星座ゆらめきつつ

水面滑るカモは二つの影法師

雲は月を沸石にまたオパールに

焼け石に水黙すまで幾たびも

眼差しがつらぬく鈍器のようなもの
 
川沿いに下りてくる春ほーほけきょ

カワセミがこっちを向いてて青くない

ヒトのフグリも野に遊べ春の青き花


二叉の風タキシード来たつばくらめ

夕まずめぱっくり開く鯉の口

宵闇がいっそう濃くなる沈丁花

夕日浴びて爆ぜてる柳とジョウビタキ

夜に深く昏く濃く甘く匂う梅
 
ひとんちの蕗摘まれず花盛り

落ち椿小学生の群れのあと

春の仔ウサギ上手に土手を掘りすぎだ


印象派日本の春を点描しなさい

三日月の蒼ざめた目蓋 地球照

雨を重み深く枝垂れてミモザたわわ

三椏がどこかでどっさり咲いている

シジュウカラ葦には目立つ白と黒

コガモ水面を流されながらくーるくる

コガモ遊んでないでそろそろお帰りな

小枝折りつつ祈りつつ道を行く


俳句 三月のマーチ Copyright 小池房枝 2012-04-08 19:21:31縦
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