刹那的発泡詩 < 1 >
nonya


「お世辞」


お世辞を言うのは
下手ではない
お世辞を言われるのが
下手なのだ

流れ落ちるほど
ユルユルに頬を緩ませて
頭の上に八分音符を
乗せてりゃいいものを

野暮な指でお世辞の裾を
めくってみたくなる
真っ赤な嘘の裏地を
嗤ってやりたくなる




「勘違い」


言葉で君を落とせると思った
言葉で人を殺せると思った
勘違いを敷き詰めた部屋で
僕は裸足の王様だった

「臭い」と鼻で笑われた
「臭い」と眉で疎まれた
「臭」は自分が大きいと書くのだと
気がついた時は遅かった

独りよがりというガスで
限りなく肥大し続けた僕は
ドアも窓も語らいもない
勘違いを敷き詰めた部屋
そのものになった




「おつきあい」


嗅覚をつまんで
味覚を音痴にして
視覚を半分ふさいで
聴覚を空へ飛ばして
触覚を粟立たせて

さあ
仲良くしよっ!




「他愛ない話」


なぜ目はふたつついているの?
>本物と偽物を見分けるために

なぜ耳はふたつついているの?
>本当と嘘を聞き分けるために

なぜ鼻の穴はふたつなの?
>勝者と敗者を嗅ぎ分けるために

それなのに
なぜ口はひとつしかないの?
>本当や嘘やいろいろなものを
>一緒くたにしして吐き出すために

他愛ない質問を繰り返しているうちに
少女はほどなく眠りこんでしまった

なぜ人は夢を見るのだろう?
>自分の罪と毒を少しだけ薄めるために

僕は今日も眠れない




「誕生日」


いつからだろう
積み上げていく喜びが
積み上がってしまう寂しさに
変わったのは

経験や実績を
几帳面に積み上げて悠々と
辺りを俯瞰出来る大人なんて
いるのだろうか

今日の自分は
積み上がってしまったガラクタの上で
ひたすら大人のお面を磨いている
高所恐怖症の猿だ





自由詩 刹那的発泡詩 < 1 > Copyright nonya 2012-04-07 10:24:59
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