こだま かさなり
木立 悟




雪の失い冬から
あふれ出る道
水の指の軌跡に
遠去かる道


午後を照らす灯
ぬるく星となり
ひとつとふたつの視線のはざまを
音と光を行き来する速さで


冬と枝が
時計を廻す
傷と歪みの
時計を廻す


砂の氷を
踏みしめる夜
誰もいないものにとって
脚は
ただ脚だけではない


ここでは描けないことが多すぎる
では何時 描くことができるのか
指が消えたあとにはじめて
描ける指が生まれ出る


片目に刺さったままの冬
どこまでもうすくなりながら
こがねを捨てられぬこがねとなり
けだものの涙を咆哮こえに染め
海さえ知らぬ海へ流れる


鉛の味 錫の味
水辺にふくれる黒の光
蒼や蒼や蒼のむこうに
なお在りつづく蒼の径


風は右胸 風は痛み
溶けては固まる 蝋の冬
灰をつらぬく灰の塔
骸骨のように立ちあがる雨


失われたまま 午後のまま
腕に刺さる矢を抜かぬまま
冬は冬として春を咬む
ひとつの流れに哭きながら


遠く遠く溺愛し
近く近く遺棄するものへ
冬はこがねに吹きだまり
鴉をうたに削ぎ落とす
鴉をうたに削ぎ落とす


見守ることなく見つめるもの
歯車と歯車のはざまの羽
街を幾つすぎてもすぎても
生きているものを見つけられずに


川は午後に着き午後を割り
粉に粉に吹き上がる
夜が落ちてくる前に
午後が午後であるうちに


水を描く また 
指を描く
午後の円に降るこだま
重なりの重なりの
行方知れぬ道に積もる


























自由詩 こだま かさなり Copyright 木立 悟 2012-04-07 02:44:24縦
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