望むひと
恋月 ぴの



必要と頷いても
近くにあっては困るらしい

それは遠くにあって
必要なときにだけお世話になる

ありがとうございました

添えたお礼と深く折り曲げた腰を上げてしまえば
あとは総てを水に流す




肌触りのよい言葉

拒む仕草を組し抱かれ
耳元で囁かれた

いずれは許すつもりでいたとしても
今すぐでないことは確かだった

愛の確証と引き換えに身体を開く

例えしたたかと揶揄されたとしても
そのほかにどんな術があるって言うのだろう

無様なほどに引き裂かれた脚を閉じ
敢えて問いかけてみる

背中越しに返ってきた返事で埋めようとして
埋められない

そっけない吐息の氷の冷たさと
 



裏切られた記憶を引き摺りながらも
託してみる

依存心が強いだけ
そうなのかも知れない

それでも
春の兆しは優しげな日差しに揺れ
曖昧な微笑みの意味を紡ぐ

そして胸のうちにと折り畳み
移り行く季節の刹那に乱れた髪を整える




明日はお彼岸の中日
いつもの年なら紅梅白梅と可憐な春の賑わい

そぞろ歩きでさえ惜しく思え
ことさらにゆっくりと境内を歩んだのに

足早とは至らぬまでも
日陰の冷たさに首をすくめ

春の訪れを口ずさむ枝先越えの陽気に心なしか綻び
水に流そうと無言で問いかけてくる背中に答え

そっと腕をからませた










自由詩 望むひと Copyright 恋月 ぴの 2012-03-19 19:21:31縦
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