
ふっくらと 光線を 中に吸い取りながら
梅が ごつごつとした 枝先に 咲いた
厳しく けなげな そのさまに なぜか
ある夏に訪れた 遠い島のことを思った
出雲の孤島の海岸には無数に瑪瑙の石がころがっている
ひかりが うまれる この季節に
あの島のあたりで 雲が出ずるのが解る気がして
あの島に問いたくなる
箪笥の奥から
遠い日 出雲の孤島で持ち帰った 石を
とりだして 日に透かしてみる
透明だ
けれど透明だと 言い切ってしまったら それは嘘で
海辺の瑪瑙は 透明の中にも その奥に不透明の翳りのある石
けれど 海の いとなみをその身にうけた鈍い光の石
箪笥の奥から とりだして みつめてみる
瑪瑙が透明だなんて嘘
いっしょに持ち帰った ガラスの破片のほうが 寧ろ ずっと透明な光
人のすることは ガラスのように 大抵は透明に近い正しさを目指す
どことなく透明に化かしはぐらかし 透明に笑い 透明に酔いしれて
人は明かりを灯して 明るすぎる光の元では またきっとなにかを見落とす
これまでの憧れ 明るすぎて
あまりに 透明すぎて
あまりに 透明すぎて
あまりに透明すぎて
あ
ま
り
に
透
明
す
ぎ
て
いろんなことがあれからひっくり返ってしまった
この国を津波がなんどさらったかしらないけれど
われにかえって 思い起こす孤島
なにかたいせつなことだけはひっくりかえらずに
異国のゴミも打ち寄せている 出雲のある孤島で
透明ではない雲と いっしょにとても大切な
何かが生まれている
そんな気がして
その不思議に 耳をかたむけているうちに
梅が咲いたのです わたしの里山の
ごつごつとした枝に
遠い島で生まれた 透明ではない雲の仕業で
きっと 梅は咲いたのです
そうおもいたいのです
花の色と かすみの色が 呼吸があっている
わたしたち
あなたとわたし こんなふうに呼吸があっているかしら
わたしたち ガラスの破片みたいに
ただ透明に転がってはいないかしら
耳をすます
心をすます
春が霞む
あの海を思い 花を一輪捧げる
祈りは リインカーネーション