冷蔵庫
まーつん

冷蔵庫の中に
悲しい思い出をしまう
それを新鮮なまま
また手に取って 眺めるために
指先で掬って 口に運ぶために

人の経験の総ては
無意識の内に求めたものだと
語る言葉があった
恐ろしい認識
僕はまだ
自分の本心を知らない

つらい記憶は
白いペースト状になって
平皿の上に べしゃりと潰れている

楽しい思い出は
儚い結晶になって
製氷皿の隅に 根を生やしている

冷蔵庫の前に立つ
裸で
僕は子供のように
古い思い出を舐める

アイスキャンデー
甘くはない

もっと 複雑な味


自由詩 冷蔵庫 Copyright まーつん 2012-03-17 22:28:32
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