ずっと待ち合わせ
あおば

                 120312

ありのままの人生を
赤裸々に語る初老の男
これ以上嘘を付きたくないのではなくて
ありのままを語ることに優越感を覚えたように
笑顔混じりにいつまでも語る

そろそろ嘘の季節に入ったようだと
薄ら寒い綿の抜けたかい巻きを抱き
広い廊下を歩いて行くと
そこではない!
突き当たりを開けてその奥に布団部屋がある
そのへんに屯しているはずだから
はやくしょっ引いてこい!
わめき声が背中をどやすので
こんちくしょういまに見てろと
拳を固め
かい巻きを楯に振り返るが
姿は見えない
空耳にしては腹に響くのが妙だ
云われたままに布団部屋に着くと
薄汚れた布団がだらしない格好で敷かれており
少し前までは誰かが寝ていたようにも見える
ここで待っていれば
誰かが来て
屯してくれるのかと
かい巻きに腕を通して横になる
日当たりがイマイチの布団部屋は正午になっても冷え冷えとして
目が冴えて眠くならない
一眠りしないと誰も訪れて来ないのだと知っているのでこのまま夜になったらどうしょう
明日は早起きして町内を一周し、そのうえ県庁所在地までも集金に行かなくてはならない
今どき銀行振り込みに応じないような唐変木相手だから取り立ては厳しい
夕方までに何件集金できるのだろうか些か心許ないが
ありのままの人生を語るようになって以来、語気も強く、自在に抑揚も付けられるようになり
役者崩れだと云うと誰もが信じるようになった
現役の役者さんと異なり、目付きが濁っているが、正視する相手は居らず、
声だけで判断されるのでまだその嘘がばれたことはない
すっと背筋を伸ばし、待ち合わせの人生ですと悟ったように語り出すと相づちを打つから、
淡々と相手の気に入る物語を縷々述べることにしているので
果たして、ありのままの人生をありのままに語るのが妥当かどうかは判断できない。






「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 タイトルは、カンノユウヤさん



自由詩 ずっと待ち合わせ Copyright あおば 2012-03-13 19:40:50
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