縄文の犬
たま

わたしは縄文の舟を漕いでいる
トチノキを刳り貫いた
粗末な舟だ
赤い犬をいっぴき乗せていた
これが最後の猟だと
わたしは思った


子どもたちは
夏の来なかった時代を知らない
もう
危ない猟をしなくても暮らしてゆける
海はあんなに近くなって
魚も貝も
たくさん獲れるようになった


おい、骨になるときは一緒だぞ


わたしの低い声に
赤い犬はふり向いて
かすかに笑った

舟は河口の葦辺を渉りきって
深い森に辿りついた


穏やかな春の朝だった










自由詩 縄文の犬 Copyright たま 2012-03-12 11:39:54縦
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