a book
itukamitaniji

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僕は古書店の隅 いつまでも売れ残っている一冊の本
誰かに買われるのを いつまでも待ち続けている
声には出さずとも 喋りつづけているのだ
時には歌うように そして時には叫ぶように

白紙だったページを 埋め尽くしたひとつながりの物語
僕を書き上げたのは どこかの無名な小説家だった
昔から話を作るのが好きで 白日夢ばかり見ていた
彼の魂は本の中 最後にビルから飛び降りるまで


「税込み、378円」 それがずっと僕の価値だった
読まれない本は 人間で言えばもう死んだも同然
いっそのこと 燃やしてくれれば良かったのだ
或いはバラバラにして 海にでも流してくれればいい

ひょんとしたことで ある日から僕は有名になった
僕が宿す話は映像になった 批評家たちは我先に
僕が宿す話を讃えた まるで自分が発見したみたいに
そして何千何万もの 僕のクローンが作られた 

僕はずっと喋りつづける
「僕が、僕こそが 唯一のオリジナルなんだ」


自由詩 a book Copyright itukamitaniji 2012-03-11 20:18:54
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