七十億
salco

今日も昨日と同じく
十万年前とも明日とも同じように生まれ出る
われわれ人類の至宝たち
と俗に言われる人類の落し物たち
あるいはユニセフのお荷物たち
我々がそうであったように
成年に達するまで彼らは
いつの時代も人類の遺品であり続ける
親たちの遺伝子と
人間社会の遺言でがんじがらめにされながら
けなげにも五億年分の進化過程を
一年と八カ月の間に再現して見せ
茶の間を飾り
様々な芸当で大人達の退屈を紛らわせてくれる
生活と性欲と
殺伐と殺戮に倦んだ大人たちを

薄明の大脳は生理欲求と感情発作を繰り返し
快と不快のスイッチを交互に明滅させながら
下等動物の無上の眠りからやがて
形而上学と不条理と予定調和とに立脚した
至高の知能動物へと
ザムザ君ばりの変貌を緩慢にだが遂げて行く
それ自体が独立した、
最も柔らかで稀少な小動物であるかのような手に
必ず何かを握りしめて生まれ
全てを手放す日の為にすくすくと育って行く
親たちは盛んに歓呼拍手し
気忙しい周章狼狽を繰り返し
いつしか漆喰壁の向こうに我が子を見失う
だがこの無垢なる微笑が至宝として
人間の中心に据えられているわけではない事を
産む前から共犯者のように知っていたのだ
社会が熾烈な競争原理の篩だと
世界が食い合いの坩堝だと
地球はキナ臭いゲップで動いていると


自由詩 七十億 Copyright salco 2012-03-09 00:17:55縦
notebook Home 戻る